このトピックでは、NetWeaver ABAP Platformの移送管理システム(Transport Management System,TMS)の仕組みを取り上げて説明します。
移送管理システムの構成
移送ドメイン
移送ドメイン(transport domain)は、移送を一元管理するすべてのABAPシステムで構成されます。移送ドメイン内では、すべてのシステムに一意のシステムIDを設定し、これらのシステムから1つのシステムのみが移送ドメインコントローラとして指定されます。 デフォルトの移送ドメイン名は DOMAIN_<SID> (<SID> はドメインコントローラのシステムID) で設定されます。 また、移送ドメインには、1つ以上の移送グループが含まれます。
移送ドメインコントローラ
移送ドメインコントローラ(transport domain controller)は、移送ルートや RFC 接続の設定など、移送ドメイン全体に関する設定を管理します。 通常は、本稼動システムまたは品質保証システムをドメインコントローラとして設定します。ドメインコントローラのシステム負荷は小さく、負荷が増えるのは TMS 設定変更時のわずかな時間だけです。 ドメインコントローラとしての役割をもつ ABAPシステムが稼動していないと、TMS 設定を変更することはできません。
移送グループ
移送グループとは、共通移送ディレクトリを共有する1つ以上のシステムで構成されるものです。
移送ディレクトリ
移送ディレクトリとは、移送データのファイルを保管するために移送グループで使用する共通ディレクトリのことです。 移送グループはこのディレクトリを使用して、すべてのエクスポートとインポートし、すべての移送はこのディレクトリで実行する必要があります。
移送ディレクトリのモデルサブディレクトリ構成は以下にようになります。 共通移送ディレクトリのサブディレクトリ
- bin
tpとTMSの設定ファイル - buffer
各システムの移送バッファ - data
エクスポートされたデータ - cofiles
コマンドファイルまたは移送依頼情報ファイル - log
移送ログ、トレースファイル、統計。 - tmp
一時データとログファイル - actlog
全タスクと全依頼のアクションログ - sapnames
各SAPユーザの移送依頼に属する情報 - EPS
SAPサポートパッケージのダウンロードディレクトリ
移送ルート
移送ルート(Transport Route)は、ランドスケープを構成するSAPシステム(「開発システム」「検証システム」「本稼働システム」)間の移送順序を指定したものです。移送ルートは、コンソリデーションルートまたはデリバリルートのいずれかのタイプです。
標準的な3 システムランドスケープの移送ルートは以下のとおりです。
- コンソリデーションルート
コンソリデーションルートは、開発システムと品質保証システムを接続します。。 自動的に作成される移送レイヤの名称は、Z<SID> (<SID> は開発システムのシステム ID)となります。 - デリバリルートは
デリバリルートは、品質保証システムと本稼動システムの間に作成されます。
開発システムでは、コンソリデーションルートに対応する (標準) 移送レイヤとリンクしているパッケージのオブジェクトに変更を加えた場合、その変更は変更依頼に記録され、品質保証システムを経て本稼動システムに移送されます。
SAP社が提供するオブジェクト(=標準オブジェクトと呼ぶ)への変更は、変更依頼に「仮修正」属性のタスクとして記録されます。この場合、移送レイヤとして“SAP”を使用することを除いて、他のオブジェクトの場合と同じ方法で移送することができます。
移送レイヤ
移送レイヤは、リポジトリオブジェクトの開発/変更を実施するシステムおよび、該当オブジェクトの移送先システム(品質保証システムや本運用システムなど)を定義します。
リポジトリオブジェクトは特定の「パッケージ」に属し、「パッケージ」に「移送レイヤ」が割り当てられます。
同じABAPシステムで開発され、同じ移送ルートで移送された開発プロジェクトは、すべてまとめられて 1 つの移送レイヤ となります。
オブジェクトの移送属性
各リポジトリオブジェクトのオブジェクトタイプには、以下のようなさまざまな移送属性があります。
クライアント非依存オブジェクト
リポジトリオブジェクトおよびクライアント非依存カスタマイジングオブジェクトがあります。
各リポジトリオブジェクトには、 オブジェクト・ディレクトリ・エントリがあります。移送属性もその中に登録されます。
パッケージ
オブジェクトを登録する時に、パッケージを指定するように要求されます。パッケージは移送レイヤに割り当てられます。 TMSで、現在のシステムからのコンソリデーションルートが移送レイヤに定義されていると、オブジェクトは移送可能な変更依頼のタスクに記録されます。 TMSで、現在のシステムからのコンソリデーションルートが移送レイヤに定義されていない場合、オブジェクトは ローカルな変更依頼に属するタスクに記録されます。
変更依頼が移送可能な場合、依頼の対象はオブジェクトのコンソリデーション対象と同じです。
マスタシステム
オブジェクトのマスタシステムは、そのオブジェクトが登録されたオリジナルシステムであり、開発と修正のためのオブジェクトの編集もこのシステムで行います。
オブジェクトは、1 つのシステムにのみオリジナルが存在します。 SAPから提供されたオブジェクト の場合は、オリジナルのシステムはSAP側に保存されています。カスタマシステムにおけるSAP標準のオブジェクトはすべてコピーとなります。この原則は、開発システム、およびそれに続くすべてのシステムにも適用されます。
独自のアプリケーションを作成する場合には、作成するオブジェクトは、その開発システムに存在するものがオリジナルになります。 開発したものを変更依頼に割り当てる場合には、タイプを開発/修正となります。 この依頼によって、開発システムから次のシステムへオブジェクトが移送されます。
オリジナルに対して変更を加えることを修正といいます。 これらの変更は、タスクのタイプが開発/修正である変更依頼に記録されます。 コピー(オリジナルシステム以外のオブジェクト) に対して変更を加えると、その変更は、 仮修正のタスクに記録されます。 SAP オブジェクトに対する仮修正は、モディフィケーションと呼ば れます。
クライアント依存オブジェクト
カスタマイジングオブジェクトのみです。
クライアント依存のカスタマイジングオブジェクトは、 カスタマイジング依頼に属するタスクに記録されます。 TMSで、現在のシステムからのコンソリデーションルートが現在のシステムまたはクライアントの標準移送レイヤに定義されている場合、オブジェクトは 移送可能なカスタマイジング依頼に属するタスクに記録されます。
TMSで、現在のシステムからのコンソリデーションルートがシステムまたは現在のクライアントの標準移送レイヤに定義されていない場合、オブジェクトは移送対象のないカスタマイジング依頼のタスクに記録されます。
移送処理
移送単位
NetWeaver ABAP Platformにおける変更はすべて依頼/タスクにより管理されます。変更が移送可能な場合に、依頼は変更の移送(リリース)単位となります。タスクは依頼よりも下位レベルに位置し、依頼のなかではユーザ名で表されます。
移送の流れ
前述の移送管理システムのモデル構成を例として移送の流れを説明します。
- 開発機DEVで依頼をリリース
依頼の各タスクがリリースされたら、依頼自体もリリース可能になります。
依頼がリリースされたら、移送分が移送ディレクトリにExportされます。 - 品証機QTSTに移送をインポート
- 移送を移送グループ1の移送ディレクトリから移送グループ2の移送ディレクトリにコピー
- 品証機QAS2に移送をインポート
- 本番機PRODに移送をインポート
ツール
- STMS 移送管理システム
移送管理システム機能には以下の機能が含められています。- 移送ドメインにおけるSAPシステムの役割の定義
- 移送ルートの設定
- 移送ツールプログラム(tp)のパラメータプロファイルの設定
- 移送ドメイン内のすべてのSAPシステムのインポートキューの表示
- 品質保証システム(QA)の品質保証/承認手続の定義
- インポートキューにある移送依頼のインポートのスケジュール
- 共通移送ディレクトリを使用しない、システム間の移送の実行
- SE01 移送オーガナイザ(拡張ビュー)
移送オーガナイザも変更オーガナイザもこの一つのトランザクションに統合されています。 - SE03 移送オーガナイザツール